親に反対されるならやめたほうがいい?
-エステティシャンにはどんな人が向いているのでしょうか?
エステティシャンは国家資格ではありませんが、高いスキルが必要な仕事です。これは施術だけではありません。ある程度の金額をいただくこともあり、サロンの格に見合った言葉遣い、ふるまいなど、高い接客スキルも求められます。
その上でどんな人が向いているか、というと、人が好きな人、人に興味がある人だと思います。お客さまが何を求めているのかを考えられないと、本当の意味でお客さまをケアすることはできないからです。
そして、肌に直接ふれるため、思いも手から伝わります。スキルはもちろん重要ですが、お客さまに喜んでいただきたいという気持ちが一番大切だと思っています。
–よく「ゴッドハンド」なんていいますが、そういうふうになるためにも練習が重要なのでしょうか。
練習や知識の蓄積抜きに“神の手”になることはありえないと思います(笑)。そういう意味では施術のための練習が苦にならないことも大切ですね。
実は施術にも流行りがあり、ゆっくりと柔らかな指づかいをする時代もあれば、素早く動かす時代もある。お客さまが抱える不調も今はスマホが原因のことが多いなど、時代によって変化しています。技術の向上に終わりはない世界です。
しかも施術は言葉で伝えて、すぐにできるようになるものではありません。努力も必要ですが、ある一定のところからはセンスも必要になってくると感じています。特にお客さまの肌から不調やその原因を感じ取るセンスが問われると思います。
施術の技術と肌や体などに関する幅広い知識に加えて、話し方などの接客も含めた総合的なスキルが必要な仕事です。
–大学に行ってからエステに就職する人も増えていると思いますが、大卒かそうでないかの違いはありますか?
たかの友梨では新人さんの育成にも関わらせていただいていました。私が勤務していた当時の話になりますが、大学卒業後、新卒で入社した方や高校卒業後に専門学校などを経て入社した方、中途で入社した方などがいました。
実はエステ業界は非常に離職率が高いんです。華やかな世界に憧れて入ったけれど、こんなに大変だと思わなかった、勉強や練習が必要だと思わなかったという人がすごく多いです。
そんな状況でしたが、大卒でない人のほうが残る確率が高かった印象があります。理由を考えてみると、「自分にはこの仕事しかない」「早く一人前になりたい」という思いの強さの違いかなと。また、初めは覚えることも多く、専門技術だけでなく、接客に必要な立ち居振る舞いを直されることも多いので、年齢的にアルバイト経験が少ない人の方がアドバイスを受け入れやすいことも理由かもしれません。
––エステティシャンは高卒、大卒どちらでもなれるせいか、親に「大学を出てエステティシャンなんて」と反対されたという相談を読んだことがあります。
私自身、母子家庭で育ったこともあり、ある程度の年齢までは「心配させたくない」という気持ちから、親に反対されたら従っていました。だから悩む気持ちは分かります。
でも、エステティシャンに限らず、仕事というのは大変なことも多いので、結局は好きかどうか、心からやりたいことでなければ頑張れないと思うんです。そう考えると、親に言われてやめられるぐらいなら、やめておくという選択肢もあるように思います。例えば1年経っても気持ちが変わらないのならやってみる、というように、区切りを決めてみるのもいいのではないでしょうか。
就職先に大手エステサロンを勧める理由
–では高校または大学卒業後、エステティシャンを目指すとしたら、どんなところに就職するのがいいでしょうか。
あくまでも私個人の考えになりますが、もし、私がスタッフを採用するなら大手エステサロンで4、5年以上勤務していたことを目安にします。
やはり大手は教育がしっかりしていますし、厳しさもあります。そして、さまざまなお客さまに対応しなければいけません。そうした環境で4、5年続けられたということは、技術、接客どちらのスキルも一定のレベルだと判断できるからです。私自身、独立してからも「これまで行っていたエステサロンと全然違う」と技術を誉めていただくことが多く、これは大手で一生懸命やってきたおかげだと自負しています。
逆に難しさもあります。これは大手に限らず、チェーン展開している会社なら同じだと思いますが、例えばもうワンランク上の化粧品を使って施術したくても、価格と見合わなくなってしまう。そこは企業として利益を出さなければいけないので、理想と現実のバランスをとる難しさは常に感じていました。
エステサロンも様々で、フレンドリーを売りにしているところもあります。私がいたのは高級サロンだったので「〜でございますか?」というように、丁寧な言葉遣いなどを求められました。職場ではそうやってふだんとは違う自分でいなければいけないので、特に10代、20代の若いうちだったりすると戸惑うかもしれません。
でも、それもお客さまに接しているうちに自然と身につきます。そういう意味でも最初に大手で学んでおけば、その後は自分のやりたいサービスに応用できるはずです。大手サロンも色々ありますが、それぞれにカラーがあり、話をしただけで同じサロン出身だと分かることも多いんです。
独立して人生が豊かになりました
–独立してからの4年を振り返っていかがですか?
独立して本当によかったです。多くのご縁に恵まれ、さまざまなチャンスをいただいているので、とても刺激があり、毎日が充実しています。
例えば環境音楽家で京都精華大学教授でもある小松正史先生とのコラボレーションによって生まれたCD「漢方音楽2」もその1つです。お客さまの体質や体調に合わせて施術しているので、以前から「その日のお客さまに合わせて流す曲も選べればいいのに」と思っていたんです。
ある方につないでいただいたご縁から、サロンのコースの1つである漢方アロマオイルを使った施術に合わせたCD制作がスタート。実際に先生にも施術を体験していただいて生まれた10曲が収められています。アロマオイルによって嗅覚、アロマトリートメントによって触覚、そして音楽によって聴覚を刺激することによる相乗効果が期待できるので、今までにない施術を行えるのが楽しみです。
このように独立しなければ、できなかった経験をたくさんすることができています。自分のやっていること、やりたいことを発信することで、仲間が増えていくのも楽しいです。独立して人生がとても豊かになりました。いい施術をするための準備として、自分の体のケアする時間を取れるようになったのも独立して良かったことですね。
もちろん大変なこともあります。細かい事務など、自分でやらなければいけないことは圧倒的に増えました。でも、会社員時代と違うのは、やるか、やらないかを自分で選ぶことができ、結果もすべて自分に返ってくること。それが私には合っていたようです。
こうやって独立して楽しく働けるようになったのは、エステティシャンという「手に職」をつけられる仕事だったことも大きいと考えています。
–手に職があると、結果的に長く続けられますよね
今、サロンを一緒に支えてくれているスタッフは前職の同僚で、小さなお子さんが2人いる方です。これまで結婚や出産でスタッフが離れていくのをたくさん見てきましたし、やはり技術は生き物なのでブランクがあると感覚が薄れてしまうという難しさがあります。それでもエステティシャンのような技術を持っていることは、女性が長く仕事を続けていく上でプラスになると考えています。
今後は子育て中のお母さんでも働きやすいサロンを目指していきたいですし、お客さまもご予約の際にお伝えいただければお子様連れでも来店していただけるようにしています。介護など「ケアする仕事」に従事する人を癒すためのエステもやっていきたいことの1つです。
他にもやりたいことはたくさんあります。例えばトリートメントには、ハーブや薬草を蒸して、その成分を皮膚から吸収させるものもあります。まだ構想の段階ですが、将来的には「よもぎ」を活用した“地産地消のトリートメント”なども考えています。
海外からのお客さまが多いつくばにお店を構えていることもあり、技術の面でもインターナショナルなサロンにしたいという思いもあります。日本の接客レベルは評価されていて、実際、海外の方が日本の有名なエステティシャンに学びにくることもあるほどです。細やかな気遣いができるという日本人のよさも大切にしながら、技術を海外レベルに高めていきたいですね。
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