このサイトは様々な分野で活躍中の人たちの経験談や考えを知ることで、「大学に行くべき?」「行かないとしたらどんな選択肢がある?」という問いへの自分なりの答えを見つけることを目的としています。
大学に行った方がいいと考える大きな理由の1つは、やはり「就職」ではないでしょうか。実際、大卒だと就職先の選択肢が広がるのは事実です。では高卒で就職する場合、どんな違いがあるのでしょうか。
そこで “学歴の壁を打ち破れ”というキャッチコピーで、大学を出ていない高卒、専門卒、大学中退者、高校を中退した中卒の方向けの就職支援サービス「サムライキャリア」を展開する株式会社前人未到の広報・五十公野 真依さんに、高卒の就職の現状やご自身の大学進学に対する考えなどを伺いました。
そもそも“大学進学”という選択肢がない
–まずは「サムライキャリア」の活動について教えてください。
現役高校生を除く18歳以上で、大学卒でない方を対象に就職支援を行っています。
高校を中退した方、高校卒業後、アルバイトをしてきた方、大学を中退した方など、これまで数百人以上の方に対面でのサポートを行ってきました。
求人を紹介して、メールなどのやり取りで終わりではなく、内定をいただくまで実際に会って面接などの対応をサポートし、内定後もフォローを続けていくのが一番の特長です。
–高校を卒業している方の場合、大学に進まなかったのはどんな理由が多いのでしょうか?
経済的な理由も多いですが、そもそも大学進学という考えがなかったという方が多いです。ご両親も高卒で、高校でも進路といえば就職が一般的だったため、大学進学という選択肢を示されたことがないと。地方だけでなく、東京でもそういう方が結構います。
–東京でも、というのは意外です。大卒の方は単純に学ぶ期間が4年長いわけですが、学業以外の経験という点ではどんな差があるのでしょう?
私たちは高卒や大学中退の方が仕事に取り組む能力は、大卒の方と変わることはないと考えているんです。足りないものがあるとすれば、自分のキャリアについてじっくり考えたことがない点です。
大卒で就職する方は自己分析やOB訪問などを通して考える機会がありますよね。でも、高卒の方の場合、自分はどんなジャンルに興味があるのか、どういう強みやスキルがあり、さらにどんなふうに成長していきたいのか、仕事を通してどう自己実現していくかについて考えたことがない方が多いと感じます。
自己分析の経験がないことが仕事選びに影響
–キャリアについて考える機会がないことで、どんな影響がありますか?
仕事を選ぶ際に、お給料、勤務時間、休日などの条件重視で会社を決めてしまいがちです。特にアルバイトをしてきた方が多いので、仕事の成果に対して報酬をもらうというビジネスマインドが身についておらず “何時間働いていくらもらえる“という点だけを重視してしまう傾向があります。
でも、条件というのは会社の業績次第で変わってしまうので、その条件が変わってしまった時にそこにいる意味を見出せなくなってしまいやすいんです。
入社1年目の離職率は大卒の11.9%に対して、高卒はさらに高い18.2%となっています。特に新卒の場合、高校生の就職は「1人1社制」といって、1社しか応募できない決まりがあり、職場見学も応募予定の会社だけしかできないことが多いです。(※1人1社制については現在、国で見直しが検討されている)
大学の新卒採用では当たり前の「複数の会社から選ぶ就職活動」ができないことに加え、こうした条件重視の会社選びをしてしまっていることも離職率が高い要因だと考えています。
最近は社員の推薦や紹介で人材を採用するリファラル採用が注目されていますが、知り合いに勧められたことが一番の動機になってしまって、しっかり考えずにその仕事に就いてしまうケースも多いですね。
何か変えたいけれど、変え方が分からないだけ
–他にはどんな部分で違いを感じますか?
自信がないことです。人間関係を理由に高校や大学を中退してしまった方が多く、「自分がきちんと会社で仕事を続けていけるのか」と不安を抱えている方が多いんです。そういう方が自信を持って採用面接に臨み、入社できるようにサポートしていくのも私たちの役目です。
–お話を伺うと、大学に進学せずに社会に出る場合、若く経験も少ない分、高校時代などにもっと寄り添って一緒に考えてくれるキャリアカウンセラーのような立場の方が必要だという気がしますね。私自身は親の立場なので、親御さんがどういう対応をされているのかが気になります。
弊社に相談に来られる方でいうと、親御さんの対応ははっきり2パターンに分かれるんです。1つは「高校を出たら自由にしなさい」と子どもに任せる方、もう1つはその逆で、就職先に対しても「こんな名前も知らない会社でいいの?」などと、少し過干渉な方です。
「サムライキャリア」ユーザーのメイン層は18歳〜26歳ですが、「親がこう言うから…」と自分の意志を通せない方、失敗しても親の言う通りにした結果だから仕方ないという思考の方が意外に多いと感じます。
でも、弊社に相談に来ている時点で、何か変えたいという想いがあるはずなんです。変え方が分からないだけなんですね。そういう方には「これからもずっと人のせいにするの?」と、かなり現実的で厳しい言葉も使いながらたくさん話をして、目標設定を一緒に行っていきます。
高校中退を経験している代表の牛島をはじめ、ユーザーを支援するアドバイザーには、高卒で長年仕事をしてきた社員もいます。20代の社員が中心ということもあり、親や学校の先生でも、企業の上司や先輩でもない、まじめな相談ができるお兄さん、お姉さんのような存在として「自分の殻を破って欲しい」という想いで接しています。
大切なのは学歴より“誰よりも頑張った経験”
–特に首都圏に住んでいると、とりあえず大学に行くことが前提になっていて、そのために中学、高校でも勉強を頑張っておこうという空気があります。色々な子がいるのに、中高で進学以外の選択肢について考える機会が少ないと感じたことがこのサイトを始めたきっかけなのですが、サムライキャリアさんは学歴についてどういう考えなのでしょうか?
大学は行けるなら行った方がいいけれど、行かなくてもいい。学歴よりも経験が大切だというのが弊社のスタンスです。だから、大学を中退するか迷っている方には積極的に就職先の斡旋はしません。
でも、高卒の方には、これから大学を受け直すよりも、大卒の方に並ぶことができたり、リードできたりするようなキャリア形成を考えた方がいいとアドバイスします。
実際、会社によるとは思いますが、社会人になると「高卒ですか?」と聞かれることもないですし、学歴はほとんど関係ないですよね?さらに転職して2社目以上の会社に入れば、スキルアップしていくので学歴の差はなくなります。
これは弊社代表の牛島が、高校を中退後、大検(現・高卒認定試験。正式名称は高等学校卒業程度認定試験)を経て法政大学に入学し、卒業後は製造業や広告代理店の厳しい営業職を経験して起業したという経歴も大きく影響しています。
牛島自身の経験から、一番大切なのは人生で1度、自分がそれこそ死ぬほど頑張ったと言える経験を持つことだと。これは多くの人が受験だったりしますが、仕事でもいい。若いうちに自信につながる経験をすることが何よりも強みになると考えています。
高校時代に自分の興味を知るための行動を
–五十公野さんは今年の8月に中途入社したばかりだそうですが、大学に行くことについてはどういうお考えですか?
実は私自身も大学に行く必要はなかったと思っているんです。高校が進学校だったので、大学は行くのが当たり前という感じで就職という選択肢はありませんでした。いかにレベルの高い大学に行くかが大事でしたね。
大学では周りより早くOB、OG訪問をやって、就職に対する意識は高かったんです。テニスサークルの活動に力を入れていたので、そこで人と接することが好きだと気づいて。食や企画マーケティングにも興味があったので、飲食業界の会社に入社しました。
ところがその会社では前年まで新卒は本社勤務だったのに、経営状況の悪化で店舗勤務になってしまったんです。結局、マーケティングなどをやれる可能性がほぼないと分かり、半年で退社しました。
その後、BtoB(法人向けビジネス)の会社でマーケティングの仕事に就きましたが、社内の事情で広報をやることになりました。そこで広報の面白さを知り、弊社に転職したんです。
新卒2年目で会社は3社目となるわけですが、これまでやってきた仕事は必ずしも大卒である必要がない仕事ばかりでした。実際に希望していたマーケティングをやってみて、どんな仕事かも分かっていなかったことにも気づかされました。
そう考えると、大学ではなく高校生の時に、もっと自分がどんなことに興味があるかを知る機会を持てたらよかったと思います。色々な年代の人に話を聞いたり、展示会に行ってみたりすることで、発見があるはずです。
大学を出ていない人の強みは柔軟さ
–ただ、大学に行かずに就職するとなると、職種などが限られるなど、デメリットが多いというイメージです。メリットはどんなところでしょうか?
やはり大学に行った人より早く経験が積めるという点です。
さらにマインドの面で、学歴の分、スキルをつけなければいけないという想いが強いので、簡単にやめないという強さもあります。特に中卒の方になると、学歴をバカにされた経験をしている方も多くて、自分を変えたいという気持ちがすごく強いです。
もう1つは素直さですね。正直、論理的に話せるという点では大卒の方が有利ですが、大卒の方は「大学出て、こんな仕事はイヤだ」と抵抗感も強いんです。
例えば営業やテレアポ(テレフォンアポインター)の仕事を勧めると、実際、高卒の方も最初は「イヤだ」「キツそう」と言います。でも「じゃあ、ラクな仕事ってどんな仕事?」と突き詰めてみると根拠がないことが多い。
そこで、実際に弊社のサービスを利用して入社した方たちが、どんなふうに成長して、今、仕事を楽しんでいるかという部分を伝えると、「自分はイメージだけで決めていたな」と考え直せる柔軟さがある。そこは仕事をする上で大きな強みだと思います。
大学に行かなかった人に有利な2つの職種
–では、具体的にはどんな職種で、学歴に関係なくスキルアップすることが可能なのでしょうか?
エンジニアと営業です。エンジニアは人材が不足していて、学歴よりもスキル重視だからです。
営業は若いことがマイナスになることもあるかもしれませんが、お客さまにかわいがってもらえるなど、若い時ならではの営業経験ができます。
これまでサムライキャリアのユーザーに営業職でご紹介した会社に、NHKさんの受信料の徴収を委託されている会社さんがあります。個人のお宅への飛び込み営業なのでとてもキツイのですが、頑張って営業成績全国2位や関東地方1位、中部地方1位になっている方もいます。
それだけの成績を収めて、何年か働けば次の転職のステップはかなり広がります。だから、18歳、19歳で相談に来た方には「同年代の大卒の人が入社する時には社会人5年目で、企業側が欲しい人材に成長できる。だから、簡単に辞めずにそこを目指そう」という話をしています。
–今回の取材をきっかけにサムライキャリアさん以外にも高卒専門の就職支援を行っている会社が何社かあることを知りました。特に最近、各社の活動が活発になっているように感じます。
背景には人材不足があります。特に新卒の場合、高卒求人は雑誌やウェブなどの掲載料が大卒に比べてかなり安いんです。さらにハローワークに求人を出し、高校を通して採用を行うので、色々な媒体に掲載する必要がないなど、採用コストがかなり低くて済みます。
こんなに採用コストが違うのなら、高卒人材を採用してしっかり育成しようと考える会社も出てきています。
今はまだ「全く同じ条件で高卒と大卒なら、大卒を採りたい」と考える企業が多いのが現実ですが、今後、高卒新卒をはじめ、大卒でない人材が成果を上げていけば、社会全体の見方も変わるはずです。
弊社もご紹介できる求人数を増やし、さらにたくさんのユーザーに利用していただくことで、就活の様々な場面での大卒、非大卒の格差をなくしていきたいです。今後は就職か進学かで悩んでいる高校生への情報発信なども行っていきたいと考えています。