
2024年7月から1年間参加した米国三越CRプログラムでの写真(本人提供)
※所属、役職、インタビュー内容は取材当時のものです。
- 2020年、【肩書きがない時間を通して、人生を___する】をテーマに掲げる「日本ギャップイヤー協会」を設立。ギャップイヤーを切り口に、「多様な選択肢を広める・ギャップイヤー経験者を支える」活動を行っている。
- 静岡県出身。高校卒業後、コロナ禍のために予定していたマレーシア留学に行けなくなり、ギャップイヤーを知る。
- 高校卒業後、ギャップイヤーを取り、フォルケホイスコーレ、ホームステイボランティア、日本語パートナーズ、米国三越CRプログラムなどを利用。デンマーク、イタリア、マレーシア、アメリカで「語学学校に通う留学とは異なる海外経験」を積んでいる。
経済的に恵まれている学生のほうが悩んでいる
–高校卒業後、フォルケホイスコーレに参加したり、ギャップイヤーを取ったりされていますが、親御さんからの反対はなかったのでしょうか?
私の家族は「金銭的なサポートは全面的にはできないけれど、自分で責任を持ってやることや私の決断は応援するよ」という感じです。
ただ、同年代の人と話していて感じるのは、むしろ逆の親御さんが多いということです。つまり金銭的なサポートは全面的にしてくれるけれど、親の意向も強いというか…。例えば留学はいいけれど、 行くなら英語圏にしなさいと言われてしまい、本当に行きたかった国に行けないという人もいました。
まわりの友人を見ても、学費のためにバイトしながら大学に通っている子もいれば、バイトなんて必要ない子もいて、家庭の経済格差はあると感じます。でもギャップイヤーの活動を通して感じるのは、むしろ経済的にも学力的にも恵まれている人のほうが悩んでいるということです。
確かに大学に行かせる経済的な余裕が親にはあって、それを実現できる学力を子どもが持っているのだから、親からしたら「なぜ、あえてその機会を放棄するのか」と理解できないかもしれません。
でも、本心ではない進路を選んだ結果、入学しても辞めたい、続けられない、このままでいいのかという悩みを抱えてしまう人が増えているのだと思います。実際、高校卒業時にやりたいことがあったのに、親や学校の先生に反対されて大学に入り、結局、退学してしまった人もいます。
こんなふうに、進路選びに関しては経済格差だけでなく、「応援格差」もあると感じます。経済的な理由で諦めなければいけないのもつらいですが、やりたいことを理解してもらえない、応援してもらえないのもつらいと思います。
–今、経済格差というお話がありましたが、費用という面で考えた時、ギャップイヤーを取るというのはハードルが高いのでしょうか。
日本ギャップイヤー協会として発信していきたいのが、まさにそういう情報です。
地元の友達や協会のイベントに参加してくれた高校生から、ギャップイヤーを取って海外に行くことに対して「お金がないから自分には無理」と言われてしまうことがあるんです。
確かにフォルケホイスコーレの時は親にサポートしてもらいましたが、費用は宿泊費も含めて半年で70万円ぐらい。集中してアルバイトをすれば、自分で貯めることのできる額だと思います。
「日本語パートナーズ」や「米国三越CRプログラム」は、寮も提供してもらえて、お給料やサポートもいただけました。もちろん通常の留学とは違いますが、費用がかからないもの、お金をいただきながら色々な経験ができるものを探すことは可能です。
何も調べずに「お金がかかる」と決めつけてしまっている人も多いと感じてるので、お金だけを理由にあきらめるのはもったいない、ということは伝えていきたいです。

ギャップイヤー経験で行動力や決断力が培われた
–ギャップイヤーについて、他にはどういうところを伝えていきたいですか?
大学や就職のような、すでに敷かれたレールでは得られない気づきを得られたり、視野が広がったりするところです。
私は高校卒業後、もっと英語を学びたいと思っていたのですが、それなら大学の外国語学部に行こう、としか考えていませんでした。
でも、大学に行かずにギャップイヤーを取り、フォルケホイスコーレや日本語パートナーズ、米国三越CRプログラムに参加したことで、英語を話せるようになっただけでなく、教育について学びたいと思うようになりました。
それにギャップイヤーは行動力や決断力もつきます。
若手起業家の方は、高校生の頃からボランティア活動などをやっていた方が多いです。でも、私は高3で初めて東京オリンピックのボランティアに応募するまで、自発的な活動は何もやったことがなかったんです。そんな私でも、どんどん行動できるようになりました。
ギャップイヤー中って、それこそ毎日寝ていても誰にも何も言われません。そんな中、自分で考えて動き、決めていかなければいけない。小さな決断の連続なんです。
何が起きても自分の責任だし、自分で決断したことだからこそ頑張れるというのが、ギャップイヤーのいいところだと感じています。
やりたいことがない、分からないと言っている人にとって、ギャップイヤーはやりたいことを探す時間になるし、いい学びの時間になるということを伝えたいですね。

右奥が友里佳さん(本人提供)
–リアルイベントの展示で友里佳さんのお母様からのコメントに「周りの友達との進路の違いで悩んだこともあったようですが、ギャップイヤーを経験して自己肯定感が上がった」とあったのが印象に残っています。
自己肯定感、とっても上がりました。以前から低かったわけではないけれど、大学に行かなかったり、ギャップイヤーを広めようとしたりしていることを理解してもらえなかったりする状況が続き、自信が持てない時期もありました。でも、自分を信じて頑張るということを続けていたら、すごく前向きになれました。
–やはり周りの人が大学に行く中で自分は行かない、という状況に、不安を感じる人は多いのでしょうか?
これは同学年の人と進学、就職をしていくことが関係していると思います。日本では自分だけ違うことをやると、「みんなが働いているのに私はこんなことしていていいのかな?」と思ってしまいがちですよね。
私もそうやって悩んでいた時期があります。でも、これってSNSのせいもあるんじゃないかなと。友達が大学生になって楽しんでいる投稿を見て、自分と比べてしまいがちだと思います。
ただ、私自身も高校生まではまわりがやっていること、学校で言われたことを疑うことなくやっているタイプでした。決して「何のためにやるのか」と問うようなマインドではなかったんです。でも、ギャップイヤーを経験して変わることができたので、誰でもできるよ、と伝えたいですね。
–逆にギャップイヤーに向いていないタイプはあるんでしょうか?
向いていないというのとは違いますが、同じ年代のライバルがいる方が頑張れる人は大学進学、新卒で就活というレールに乗っていた方が合っているかもしれません。逆に私はスタートもゴールも同じで、期間も決められているのが合わないんだと気づきました。

後列真ん中が友里佳さん(本人提供)
大学は「自分次第でいつでも行ける」と思うようになりました
–コロナのためにマレーシア留学に行けなくなったのをきっかけに、ギャップイヤーと出会い、色々な活動を続けています。今は大卒の資格を得ることにはこだわっていないのでしょうか?
もし大学に行っていたら2024年卒業で、今は社会人になっているはずでした。高校卒業後、この4年の間にフォケホイスコーレに行ったり、日本語パートナーズでマレーシアに行ったりしたことで、教育について学びたいと思うようになりました。
大学でも学んでみたいけれど、それは今じゃないなと考えています。この4年間で「大学は自分次第でいつでも行ける」と思えるようになったことが1番の変化ですね。
ギャップイヤー経験のある方たちのお話を伺うと、ギャップイヤー後に大学に戻った方も多いです。ギャップイヤー経験のある起業家の方は、意外に有名大学を卒業していたりします。
すごいなと思う反面、この4年間、高卒で就職したり、起業したりして頑張っている人に励まされたことも多いんですね。だから、高卒という肩書きでもいろんなことができるんだぞ、ということを私自身が証明していきたいという使命感もあります。
実際、経済的な面をはじめ、さまざまな理由で大学進学という選択肢を選べずにいる人もいるはずです。ギャップイヤーやフォルスホイコーレのようなお金のかからない学び方、過ごし方を高卒のロールモデルの1つとして広めたいという気持ちもあります。
協会の立ち上げから約5年経ち、ようやくベースができました。ギャップイヤーを広めるため、今後は協会の活動にフォーカスしていきたいと思っています。
まだ大きなインパクトを与えられているわけではありませんが、目の前の人の背中をそっと押したり、安心感のあるコミュニティをつくったりすることは少しずつできてきたと感じています。
ここまで続けてこられたのは、オンラインでも協力し、支えてくれた協会メンバーのおかげです。
最近は、自分自身のキャリアを積んでいきたいという気持ちも芽生え、これからどう生きていくか悩む日々です。それでも、「寄り道を弱みではなく強みとして還元できる社会」を目指し、私自身の生き方、そして協会としてのあり方を見つめながら、一歩ずつ前へ進んでいきたいと思っています。
