新卒で入社後、転職を経て、ゲーム業界に30年以上勤務。人気タイトルをはじめ、さまざまな形でゲームに関わってきたHさんに、匿名を条件にゲーム業界をめざす人に向けてお話を伺いました(全3回の第2回/第1回から読む)
知っておきたいゲーム関連企業の「違い」
–ここまでざっくり「ゲーム業界」と言ってきましたが、Hさんの職歴を伺うとゲームに関連する企業にもいろいろあるということですね。
まず、ゲーム業界には大きく分けてパブリッシャー(ゲームパブリッシャー)とデベロッパー(ゲームデベロッパー)があることを知っておくといいと思います。パブリッシャーというのはゲームタイトルの企画・開発から宣伝・販売までを行う企業で、大手ではソニー(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、任天堂、スクウェア・エニックス、カプコン、バンダイナムコエンターテインメントなどがそうです。
一方、デベロッパーというのはゲームタイトルの開発だけを行う会社で、パブリッシャーが企画を行い、デベロッパーが開発するケースも多いです。私が勤務している会社では大手パブリッシャーの企画したゲームタイトルもあれば、自社で独自に企画・開発をしているオリジナルタイトルもあります。会社によって違いますし、パブリッシャーの規模もさまざまです。
また、パブリッシャー、デベロッパー以外で、ゲーム機本体を開発する企業はプラットフォーマーとよばれます。ソニー(PlayStation)、任天堂(Switch)、マイクロソフト(XBOX)などが代表格で、ソニーや任天堂はプラットフォーマーでもあり、パブリッシャーでもあるということになります。
ちなみにここまで話してきたのは主に家庭用ゲーム機(コンシューマーゲーム)とソフトをつくる業界についてですが、同じゲーム業界にもスマートフォン向けゲーム、オンラインゲーム、ゲームセンターに置かれるアーケードゲームを扱う企業もあります。

ゲーム業界の学歴フィルター事情
—就活時のお話で、今勤務されている開発会社(デベロッパー)にも学歴フィルターはないとおっしゃっていましたが、他の会社ではどうなのでしょう?
まず、大手パブリッシャーの場合、高専や専門学校が採用基準になっているところもあり、大学卒や有名大卒が前提ということはないと思います。ただ、人気企業のために結果的に有名大学卒の人が多くなっているというのが実情かもしれません。
デベロッパーの場合、大学名で差がつくかということに関して言えば、他の会社でいわゆる学歴フィルターが存在するかは分かりません。ただ、プランナー、プログラマー、エンジニア、デザイナーなどのクリエイティブ職に関して言えば、大学名で差がつくということはあまりないのではないでしょうか。
先ほども言ったように、僕が勤めているゲーム開発会社では大学も指定していませんし、大学に限らず、高専・専門学校卒以上を条件としています。実際、社内にはゲーム関連の専門学校卒で活躍している社員も多いです。
ただ「ゲームの仕事をしたい」だけではダメ
—ゲーム業界への就職ではゲームが好きなことは前提だと思いますが、入りたい人に伝えたいことは?
採用に多少関わってきた経験から言えることがあるとすれば、新卒でゲーム業界に入りたい場合、まず「あなたはゲームを作る人になりたいのか?」それとも「ゲーム業界に入れればいいのか?」を明確にしたほうがいいということです。
後者のゲーム業界に入ることが目標なら、以前の僕のように営業や広報、ゲーム関連の出版に関わる仕事など、会社も職種もたくさんあると思います。
一方でゲームを作る人になりたい場合は、やはり入社前に何を学んできたかが問われます。業界によっては大勢を採用してゼロから教えるという会社もあるかもしれませんが、特にクリエイター職の場合、職種別の採用が多く、知識ゼロで入れる会社はあまりないように思います。
例えばプログラマーは数学や物理の知識がなければ、今どきのゲームには必須の3Dを扱えません。だから、履歴書よりも、ポートフォリオなど、作品がメインの判断基準になります。

大学とゲーム関連の専門学校、どちらに行くべき?
—進路選択の際、例えばゲームに直接は関係ない大学とゲーム関連の専門学校、どちらがいいのかと迷ったりすることもあると思うのですが、大学卒、専門卒の人でどのような違いがありますか?
やはり専門学校のほうがゲームの技術的なことを学べることは確かです。ただ、採用の際は応募作品のレベルだけで判断しているわけではなくて、「今後、伸びそうだな」とか「基礎がしっかりしている」といった面も見ているんです。
例えばプログラマーなら、他の人にも読みやすいようにプログラムが組めているかというようなことも判断基準になったりします。デザイナーなら、デッサン力やデザイン力に将来性を感じたら、ソフトを扱えなくても採用する、というようなことも決してないわけではありません。
専門卒、大学卒の違いということで言うと…自分が好きな業界、好きなタイトルをつくっている会社に入れたとしても、自分の好きなものだけを作れるわけではないですよね。当然、入社後は自分がつくったものに対してNGを出されることもあります。
その時、専門学校でゲームづくりを極めてきた人の方が、つくったものを否定されることに対する拒否感が強いというのは感じます。もちろん全員ではないですが、大学卒の人よりもそれが強い傾向はありますね。
だから大学に行った方がいいというわけではなくて、ゲームに関することだけでなく、いろいろな経験をしておいた方がいいということです。
独創性だけではない。採用の際に重視されること
—デッサン力やデザイン力に「将来性」を感じる部分とは、例えばどんな点でしょうか?
僕が直接採用しているわけではないので、あくまでもメンバーから聞いたことになりますが、やはり「基礎力」というのは重視しているようです。
独創的ということももちろん大事ですが、それ以上にこの「基礎力」が重視されます。なぜならその作品を代表するようなキャラクターは、著名なイラストレーターにお願いするケースが多いです。そこにはもちろん独創性が大切ですが、ゲーム全体を考えるとそれは一部に過ぎない。メインキャラクター以外に膨大な背景があって、そういうものをつくる上ではやはり基礎力が問われるそうです。
ゲームって架空の世界ですよね。その中で建物を表現する場合、立体で捉えることができて、見えない部分までしっかり表現できるか、というようなことが基礎力です。キャラクターの服装だったら、洋服の生地は○○なのでここは表現を変えましたとか、どこまでこだわって架空のものをリアリティのあるものに表現できたかというようなことです。
—そうしたクリエイティブな面以外で見るところはありますか?
作品での判断が難しいのがプランナーです。プランナーはゲームの遊びの部分を作る、中心的な存在になります。でも、プログラムを書いたりデザインをしたりするわけではないから、他のスタッフの協力、もっと言えば信頼を得られなければ何も作れない。
当然、プランナーの指示1つでみんなが動いてくれるわけではなく、自分のイメージや思いをきちんと言語化しながら完成に向けて進めていける能力や、圧倒的なコミュニケーション能力が必要になります。だからどんなに面白いゲームを考えられても、人とのコミュニケーションが苦手、関わるのが好きではない、という人には難しいです。

あと、プランナー志望者にはゲームの企画書を出してもらうのですが、当社が扱っていないゲーム機用の企画書で応募する人も少なくありません。要はPlayStationのソフトを作っている会社にはPlayStation用の企画書、switchのソフトを作っている会社にはswitch用の企画書を出すというのは大変だと思うのですが、それができる人は色々な面で気が配れる人なんだろうな、と感じたりします。もちろんそれだけで判断することはありませんが。
第3回に続く
