大学に行かない選択肢があるなんて考えたこともなかった
–-中学・高校は、私立の一貫校に進まれたそうですね。
出身は神戸市の下町なのですが、当時、地元の公立中学校の環境があまりよくなかったことから、他の中学に行きたいと思ったのがきっかけです。勉強も好きな方だったし、母も教育熱心だったので、小4から塾に通って私立中学を目指し、女子校に入学しました。
一貫校なので高校受験はないけれど、中学・高校の6年間で大学受験の準備をするという感じで、決してのんびりした雰囲気ではありませんでした。まわりも勉強や進学への意識が高かったと思います。
そんな環境だったので、「大学に行かないという選択肢がある」なんて考えたこともありませんでした。同級生には美容や音楽などの道に進みたいという子もいましたが、「それならせめて音大にしなさい」とアドバイスされていました。
将来、仕事に就くためには、いい大学に行くことが大前提だと信じていました。
阪神大震災をきっかけに住宅の仕事を志す
—では当時はどんな大学、職業を考えていたのでしょうか。
漠然と仕事に直結する勉強がしたい、せっかく大学に行くなら実務に近いことを学べる所がいいなと。生物や化学などの科目が好きだったので、バイオの研究者などを考えていましたね。
ところが高1の冬に阪神大震災で自宅が被災したんです。火災で家を失った方が多い地域だったために避難所はいっぱいで、傾いた自宅にどうにか住んでいました。
その時、東京で設計事務所をやっていた親戚が神戸まで来てくれたんです。自宅は市の判定で解体すべきという状態でしたが、住宅ローンも残っていたりして簡単に建て替えるわけにはいかなかった。それで補強という形で直してもらったんです。
それまではなんとなく自分が好きなことを仕事にしたいと思っていたけれど、この出来事をきっかけに相手が本当に求めているものに応えられる仕事、社会に還元できる仕事っていいな、と思うようになりました。
さらに不動産のチラシを見るのが好きだったこともあり、ビルよりも生活に近い住宅の分野に進みたいと考えるようになったんです。
大学、大学院で1つのことを深く勉強したことが自信になっている
–大学は建築学科に進んだのですか?
最初は建築なら工学部という感じで大学を探し始めたのですが、物理が苦手だったこともあり、受験科目で考えていくうちに家政学部でも住宅に関することを学べることが分かりました。中・高と女子高で過ごして居心地がよかったので、「女子大の家政学部」もよさそうと感じ、一浪して国立大学の住居学科に進みました。
–大学生活はどうでしたか?
各県から学生が集まっていて、中高では出会えなかったような人たちに出会えたことが大きかったです。国立大だったこともあって奨学金で学んでいる学生も多く、仕送りをしてもらっている自分の恵まれた環境に気づくこともできました。
学生寮に入ったので、寮では色々な方言が飛び交う生活。風邪をひいた時は同室の先輩が看病をしてくれたり、女子ばかりなので力を合わせて色々なことをやったり、とにかく温かくて楽しい環境でした。先生たちも第2の父、母のような存在で、今でも交流があります。
大学では住宅に使う木材について研究して、大学院まで進みました。1つのことを深く勉強したという自負はありますし、それが大きな自信になっています。
学歴より「早く始めること」が強みになる世界もある
–大学院修了後、就職はどうしたのですか?
私が就職活動をした年は就職氷河期でした。同じ学科には希望のハウスメーカーをあきらめ、建築以外の分野の会社に就職した友人も多かったです。
私自身は学生時代にハウスメーカーでアルバイトをして、自分が進みたいのはメーカーではないと早い段階で気づきました。
もっと、ものづくりができる現場に行きたいと考えていた時、木工の製作技術を学べる大阪の職業訓練校を知り、大学院修了後、もう1年学ぶことにしたんです。
訓練校の生徒は求職中の社会人や中学を卒業したばかりの人など様々でしたが、10代の子たちの上達の速さは私たちの比べ物になりませんでした。
この時、ものづくりの現場では学歴というより、「早く始めること」のほうが強みになる世界なんだということを体感したんです。
訓練校を出た後、千葉県の工務店でアルバイトをはじめ、26歳でようやく社会人生活をスタートしました。その後、正社員として採用していただき、その工務店にいた3年の間に一級建築士の資格を取得しました。
居心地のいい、自分に合った働き方を見つけられた
–設計事務所だけではなく、工務店も始めたのはなぜですか?
建築士の資格を取った後は独立して設計事務所を始めました。
最初は工務店から請け負った設計の仕事が中心でしたが、3〜4年続けるうちに徐々に直接いただく仕事も増えてきたので、その後、自宅を事務所にして独立したんです。
お客様から依頼された設計だけを自分でやって、施工(建築物の工事など)は工務店にお願いしていましたが、元々、工務店出身なので、現場で「もっとこうならやりやすいのに」と思うところが増えてきて。建築業の許可をとって、設計・施工を一貫して行う工務店を始めました。 今で4年目になります。
施工の仕事では自分が監督となり、大工さんをはじめ、職人さんたちに指示を出して建物の完成を目指していきます。
工務店の仕事はいつも現場にいるわけではなく、細かい事務仕事も多いです。面倒だと思うこともたくさんありますが、現場で直接、お客様とやりとりできるのが楽しいですね。
会社組織で家づくりの仕事をすると分業になることが多く、自分の担当の仕事しかできません。
スタートから完成までお客様と関わり、すべて自分で進めていける今のスタイルが、私には居心地のいい働き方だし、自分に一番合っていると感じています。
インタビュー2に続く
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