家を建てる現場では、学歴もオプションでしかない

工務店代表・建築士山本明香さん
山本明香(やまもと さやか)さん /1979年生まれ。
株式会社ひだまり設計工房代表取締役・一級建築士

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信じてきた価値観がものづくりの現場で崩れ去った

自分の好きな仕事ができている今、 自分が選んだ大学、大学院進学という選択についてどう感じていますか? 

ものづくりの現場に入って、自分が中学、高校の時に信じていた「大学さえ出ていればオールOK」という価値観は崩れ去りました。 

大工さんなど、建築の職人さんたちは中学、高校卒業後に仕事を始めた方も多く、26歳で仕事を始めた自分よりも実務のスタートが10年近く早い。大学、大学院で学んで、どんなに知識があっても、実務を積み重ねて来た人にはかなわないと感じる場面はたくさんあります。 

やはり若い時に仕事を経験しているのは強いです。体力、気持ちの面でも、若いほうが技術を吸収しやすいし、目上の人から指導してもらいやすいからだと思います。

職人の世界では、年齢を重ねてから始めやすいのは実務より勉強だと思うんです。だから、もし先に現場で仕事をしていたら、今とは違い、きっと大工など実際の施工業務をやっていたと思います。

現場で大学名なんて聞かれたことがない

職人の世界に進んでみたら、学歴は強みにはならなかったということですね。

そもそも家を建てる現場で、どこの大学を出たかなんて一度も聞かれたことがないです(笑)。 “どこの大学を出たか”にこだわるのって、有名な企業で働く人ならではという気がします。

設計事務所の建築士だったら、大学名が設計を依頼する際の判断材料になることもあるかもしれませんが、それでも出身大だけで決まることは絶対にない。

やはり今、どういう仕事をしているか、どういう考えで仕事に携わっているかのほうが大切で、学歴はオプションでしかありません。

中高生の時、大学に行かないという選択肢もあると知っていたら、また違った人生もあったと思いますし、その道があることも教えて欲しかった、という気持ちはあります。 

もし、学歴がコンプレックスになってしまうなら

それはすでに大学を出ているから言えるという面もあるのでは? 

でも、学歴に限らず、家庭環境とか経済状況って、上を見たらキリがないわけで、大学を出ていれば満足するというわけではないですよね? 

やっぱり仕事をする上では、今、何が自分にできるか、何を求められていて、どう応えられるかということのほうが大事です。

それができた上で、まだ学歴がコンプレックスになってしまうなら、そこから大学に行けばいいと思うんです。 

学びたい時に学ぶ方が強いと感じた経験

-職人になってから大学に行くという選択もありということでしょうか?

もし、今とは逆の順番で、職人になってから大学に行っていたら、もっと興味を持って真剣に授業を受けられたでしょうね。その方が本当の意味で学んだことが役立ったと思います。

大学の時、社会人入試で入学してきた人もいて、自分に必要な知識を得ようとしている彼女たちと、ただ単位を取ろうとしているだけの自分とは意欲が全く違いました。この時、学びたい時に学ぶ方が強いと感じた経験も大きいです。 

特に学生の時は専門科目以外の勉強はつまらなくて、でも卒業するために単位が必要だから、という理由だけで受講していたのですが、今考えると本当にもったいないです。

建築に限らず、どの仕事もその分野の知識だけあればいいわけではなく、より多く、深く知識があるに越したことはないと思います。これは仕事に限らず、生きていく上でも言えることです。

私も今はこんなことを言っていますが、学生の頃、大学の先生が同じようなことを言ってくれても、全然響かなかったんですけどね(笑)。

働いてから大学で学んでも遅くない

 –では、もし中学生、高校生に戻ったらどうしますか? 

仕事での立ち位置を知り、どんな知識が必要か分かってから大学で学んでも遅くはなかったと思っています。 

早い時期に職業を決めて、高校や大学に行かないことに対して、「もし全く違うことをやりたくなった時にどうする?」と言う人もいますが、その時点でまだ20歳前後なので、いくらでも進路変更できます。 

高校、大学に行った方がいいという意見って、企業に就職する時に困らないから、という理由が大きいと思うんです。でも、企業に勤めることだけが仕事ではないですよね。

定年が70歳になりそうな時代、22歳で就職して70歳まで働くってものすごく長いです。これまでと同じように考える必要はないんじゃないかなと。 

あと、私は関西から千葉県の会社に就職したので、関東のどこの学校が優秀だとか、出身校の名前を聞いても分からないんです。同じ日本国内でもそんな感じなので、海外に出たらその人がどこの大学を出ているかなんて、よほど世界レベルで有名な学校でない限り、武器にはならないとも思います。

大学に行かず、挑戦した経験は無駄にならない

–では、大学に行った方がいいと思いますか? 

あえて人と違う道を選ぶということは、今の日本ではよほどの意思、覚悟がないと厳しいというのが現実で、大学進学のようにメジャーな進路を選んだ方がラクなことは確かです。

学校という環境は友達や先生との出会いによって考え方が広がるので、「こうしたい」という希望がないなら行っておいて損はないと思います。 

でも、やりたいことが決まっていたり、学校や勉強がどうしてもイヤだったりするのなら、無理に行く必要はないと私は思っています。

しっかり目標を持って、その上で期限を決めて挑戦してみればいいと思うし、その経験は絶対に無駄になりません。 

仕事だけでなく、トータルで幸せだと感じられる道を

–最後に中学生や高校生の進路選びについて何かアドバイスがあればお願いします。

よく「好きなことを見つけなさい」と言いますが、見つけようと思って見つけられるわけではなく、気がついたらそれが好きだったり楽しかったりするものです。

それよりも自分がどんなことで必要とされているか、という視点で進路を考えることも大事だと思います。 好きなことを仕事にするよりも、得意なことを仕事にする方が生きやすいし、それが好きなことだったらラッキーぐらいの気でいればいいんじゃないでしょうか。  

「仕事」だけでなく、趣味や生活などトータルで考えた時に、自分らしく幸せだと感じられる道が見つかれば一番いいんじゃないかな、と思います。

山本さんのホームページ

ひだまり設計工房/千葉県船橋市の小さな工務店
千葉県船橋市の小さな工務店です。木造住宅の新築・リフォーム、マンションの木のリノベーション。木や自然素材のぬくもりに包まれた心地よい空間を創ります。

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