(写真はイメージです)
今から18年前、2001年の4月、岡山県の工業高校でデザインを学んでいるという高3の女の子からメールをもらいました。
「家計のことを考えて就職するつもりでしたが、もの書きという夢ができました。でも、記者、ライター、編集者など職種がたくさんあって違いが分かりません。専門の学校に行けばいいのか、頑張って勉強して大学に行くべきなのか悩んでいます。編集の本を読むと有名大学出身の人が多く、やっぱり頭がよくないとライターや編集者にはたどりつけないのでしょうか?」
というような内容で、私が登録していたライター紹介サイトでメールアドレスを知り、思い切ってメールをしてみたということでした。
私自身、高校時代に文章を書く仕事がしたい、でも、どんな進路に進めばいいか分からないと悩んだ経験があり、出版社に入る=文章を書く仕事ができると勘違いしていたこともあり、彼女の気持ちがよく理解できました。
当時は今のようにSNSで気軽に人とつながれる雰囲気ではなかったし、そもそも高校生が気軽にインターネットを使える時代ではありません(実際、お父さんのメールアドレスで送っていました)。
そんな環境で見ず知らずの人にメールを出してでも知りたい、という想いを応援したくて、しっかり返事を書きました。
まず、「私自身、有名大学出身ではない」ということを伝え、記者やライター、編集者の違いを説明しました。
そして、あくまでも私の考えとして、
・大学や短大はもちろん専門学校に行ったとしても、すぐに仕事ができるような技術が学べるわけではなく、出身学部はあまり関係ない。実際に体育大出身の編集者などもいる。
・大学を出た方が有利で求人も増えるが、大卒でなければ仕事に就けないわけではない。頭がいい=勉強ができるからなれるわけではない。
といった内容を書いた上で、大切なのは「誰にも負けない好きなジャンルを持つことや、自分が納得のいく決断をすること」とアドバイスしました。
彼女のメールによると、高校の先生方は「もの書き」になりたい生徒の進路指導は経験がなく、あまり親身になってもらえていないようでした。
高校の先生からは、就職するなら新聞社や広告会社、印刷会社を勧められているとありましたが、おそらく記者などの職種ではないし、広告会社や印刷会社は身近な会社ではあるとはいえ、実際は全く違う仕事に就くことになると思い、彼女にも伝えました。
その後、少しメールのやり取りをした後、彼女とは連絡を取っていません。あれから18年、今は30代になっている彼女が、結局、どんな進路を選び、どんな社会人になったのかとても興味があります。
今、彼女とのやりとりを見返してみて感じるのは、高校3年生の時にやりたいことが見つかっても、誰に進路を相談し、どんなアドバイスをもらうかで進む方向が変わってしまうということです。
この時、彼女宛のメールにも「工業高校で学んだデザインは決して無駄にならないはず」と書いたのですが、そうした知識を生かせる書く仕事があるかもしれないし、まずはデザインから入って書く仕事に移行することもできるかもしれません(実際に知り合いにいます)。
また、彼女がなぜ、もの書きになりたいと思ったのかを一緒に掘り下げてあげられる大人がいれば、それは必ずしも記者やライターでなくてもよいという結論になる可能性もあります。
そう考えていくと、「本人の希望に添って、進学先や就職先をアドバイスする」のではなく、「やりたい、なりたいという想いに寄り添って、色々な選択肢を提案する」コンサルティング的な大人が、高校や大学、もしかしたら中学にも必要だし、じっくり調べて考える時間ももっと必要だと感じます。
今は色々な仕事の生の情報が得られるようになりましたが、「とりあえず出版社などは大学卒しか採らないから、大学に行った方が可能性は広がる」と大学進学を勧める大人は、きっと当時より多いでしょう。
でも、自分も親になってみて、大学に行かせる大変さも分かるだけに、進学を勧めるのなら「絶対に大学に行った方がいいんだ」と決断できるような理由がほしいところです。
文章を書く仕事に限らず、絶対に大学に行かなくてもできる仕事はたくさんあります。古いメールで18年前の女子高校生とのやりとりを思い出し、なぜ大学に行くべきなのか、逆に行かない選択で得られるものをは何かを伝えられる記事を書いていきたいと想いを新たにしています。