アートシンキングとは?
––尾和さんが開発して、事業のメインとなっている「オリジンベースド・アートシンキング(以下、アートシンキング)とは、どんなものですか?
芸術家の制作プロセスや思考回路を、ビジネスなど他の領域に応用するものです。
主にビジネスシーンでの事業創造に応用していますが、キャリア設計・人生設計にも、もちろん応用できます。
具体的には自分の起源(オリジン)…つまり、哲学や美学、美意識など、自分の価値観を細かく分析します。その上で「どういう未来を描きたいか」まで見据えることで、その未来のために今、何をしていけばいいか、を見つけていくことができます。
芸術家の作品づくりは、0から1を生み出す作業です。それと同じように、自分の中にある一般常識や固定概念をベースに思考するのではなく、自分の起源をベースに問いを立て、そこから望む未来を創造していく。それによって深く思考できるので、無自覚だった課題にも気づくことができるのです。
––アートとあるので、絵を描いたりしながら考えていくのかと思っていました。
確かに思考を深めるために、絵を描く場面もあるのですが、比重としてはアートよりも「シンキング」が大きいです。
ロジカルシンキング、デザインシンキングなど、いろいろな思考法がありますが、ロジカルを土台として、クリエイティブが存在するのが弊社のアートシンキングです。
強みを作らなければ、この会社で生き残れないと思った
––今、「アートシンキング」を事業として行っていますが、この思考法はどのようにして生まれたのですか?
私は自分のアイディアを形にするのが好きだったので、世の中にまだないものを提案し、何もないところから新しい時代を作っていくような仕事がしたいと思っていました。
新卒で入社したのが外資系のコンサルティング会社でした。外資系企業への憧れもありましたが、コンサルティングは正解を生み出していく、0を1にする仕事だと思っていたからこそ、志望したんです。
でも、実際に入社してみると、すでにある正解に向かって整理していくとか、決まっている正解をブラッシュアップしていくような仕事がほとんどでした。
その上、コンサルタントはみんなすごくロジカルで頭のいい人ばかり。いわゆる「左脳型」ばかりの中で、私は論理的に考えるのがとても苦手だったんですね。
会社では「右脳爆発系コンサルタント」とよばれていたほど、まわりとは違いました。
––意外です。今、尾和さんと話していると、すごく論理的に考えている印象で、左脳型じゃないかなと。
そう言ってくださる方は多いんですが、自分の中ではロジックがあるんだけれど、せっかちなので3段ぐらい飛ばして話してしまったりするところがあって。コンサルティング会社では全然通用しませんでした。
同僚には帰国子女も多く、私は英語もパソコンも得意ではなかったので、何か強みを作らなきゃ生き残れない、と思ったんです。
同時に、人間の生み出す価値は何になっていくのかも考えました。勤めていた会社は世界トップクラスのAIの技術があり、2045年にはAIが人間を超すと言われ始めていて、人間もどうやって生き残っていくのかな、と考えたんですね。そこで、無から有、つまり0から1を生み出すことが必要になると感じ始めました。
考えたのが、「右脳型」であることを生かすことでした。子どもの頃、ファッションデザイナーになりたかったことを思い出し、ファッションデザインスクール「coconogacco(ここのがっこう)」に働きながら通い始めたんです。
そこで気づいたのが、芸術家は全くゼロの状態から直感や感性に頼ってものづくりをしているわけではなく、実はロジカルだということでした。自分の過去や哲学など、根本にあるものに向き合う作業を経て課題を見つけ、時代背景や地理的なバックグランドを元に、作品を生み出しているんだと。
右脳と左脳を組み合わせて思考するアートシンキングの考え方は、ここで生まれました。
アートシンキングはこれからの日本でこそ求められる
––そこから、どうやって起業したのですか?
さらに右脳と左脳を使った思考法ついての学びを深める場所として、デンマークのビジネススクールを見つけ、会社を休職して留学しました。
ところが、そこのプログラムが自分の期待を超えるほどではなかったんです。自費留学だったので、学費、生活費で年間300万円以上が消えていくことを考えると、これがベストな手段なのかなと考えるようになって。
それなら会社の登記費用に100万円使って事業を始めた方が得るものが大きいと思い、スクールを卒業せずに起業することにしました。
最初はせっかくヨーロッパに来たので、バルセロナで起業するつもりで数カ月住んでリサーチしたんですけど、これからの時代、日本でこそ、正解のない答えを見つけ、世界に提案していくことが求められるんじゃないかと考えて帰国しました。
––今でこそアートシンキングという言葉が少し知られるようになりましたが、起業された3年前は広めるのは難しかったのでは?
そうですね。形のない、かつ新しいものを広める難しさを痛感しました。例えると、電話が一般家庭に普及していない明治時代の人に、実物を見せずにスマートフォンについて説明するような感覚でしょうか(笑)。
形がないもので一番広まったものは何か?と考えて、宗教だと思ったんです。あくまでも私の想像ですが、お寺やモスクなどの空間があって、讃美歌、お香、キャンドルの灯など、五感に訴え、世界観を体感してもらえる仕組みがあったことが大きかったんじゃないかと。
それで、アートシンキングを視覚に訴えて、体験もできる「モバイルハウス」を作り、ワークショップを行ったりしました。
そこから事業は加速し、実際にアートシンキングを体験していただくと、喜んでくださる方が多く、本当にうれしいです。「体験すると人生が変わるよ」とまわりの人に勧めてくれた方もいました。そういう方からのご縁で、企業でもワークショップを開催させていただいたりして、少しずつ広まっています。
––大手企業との取引も多いと聞きました。ビジネスの場で、どんなふうに活用するのでしょうか?
例えば「自社のオリジン」を追究することで、この時代に自社しか世界へ提案できない独自の製品やサービス、価値を生み出すことに役立ちますし、自分で考え、動くことのできる人材の育成にも応用できます。
また、どういう未来を描きたいのかを考えていくと、必ず現在とのギャップにぶつかります。なぜ、ギャップが生まれたのかという問いを立てて、解決するところまで考えていくことが大切になりますが、そういう思考の過程を組織づくり(チームビルディング)などに使うことができるのです。
実際に「常識にとらわれずにアクションする」というところまではなかなか難しいですが、「思考方法が変わる」という声はいただいています。
30歳の私から、中高生のうちに伝えたいこと
––このサイトは中学生や高校生にも読んでほしいと思っているのですが、アートシンキングは中高生にも役立ちますか?
今、VUCA(ブーカ)の時代と言われています。VUCAとは環境が目まぐるしく変化して、将来が予測できない状態を意味する造語です。
つまり中高生は、現在の考え方、やり方では通用しない、正解のない時代を生きて、さらにリードしていくわけです。
アートシンキングのように自分で0から考えて答えを見つけていくことができると、人生のすべてを自分で選択していけるようになります。そうすると人生の満足度も上がるし、生み出せる価値の総量も増えるはずです。
今、大人を見ていて思うのは、会社の愚痴を言っている人がすごく多いということです。これは他人の決めたルートに自分も乗ってしまった結果だと思います。
他人の価値観で会社を選び、不満があっても別の道を選ぶことや、自分で新たな選択肢を会社へ提案することを放棄しているんですよね。
確かにその方が安心だし、疲れないし、楽なんですよ。私も会社にいた時はそうでした。
でも、0から考えていく生き方だと、すべて自分で選んでいくから、どんなことも「他人事」じゃなくて「自分事」になる。そして、自分事になると一生懸命になります。
さらに、一生懸命だと、本気の仕事の仕方になり、自ずと自分にしか生み出せない価値が生み出せるようになります。代替不可能な人材になるので、市場価値も上がります。
私自身、会社をやめて独立してから、200社に営業メールを送っても反応がなかったり、決まっていた数百万円の案件がなくなってしまったり、大変なこともあります。
でも、毎日、一生懸命生きている感じがするし、1日といって同じ時間のない、特別な毎日を過ごすことにつながっているので心地いいです。幸福度も上がります。
––「自分事」の人生を生きるために、中高生のうちにやっておくべきことはありますか?
とにかく色々なもの、人にふれることです。自分の持っている選択肢が、自分の未来を作ります。もし、10年前の私が目の前にいたら、精一杯、今知ってい限りの世界と選択肢を伝えると思うんです。
例えば皆さんがよく見るYouTuberが別世界の人だと思わずに、自分の選択肢の1つだと思ってみてみることで、見える世界が広がっていくはずです。
あとはインプットだけでなく、アウトプットも増やすことが大切だと思います。発信してみて気づくこともたくさんあるからです。アウトプットは「失敗したらどうしよう…」と怖くなる気持ちもわかりますが、チャレンジしないと新しい世界は見えません。自分の好奇心を信じて、どんどん進んでいきましょう。
今、30歳の私から伝えたいのは、一生懸命生きられる人生とは?という自分自身への問いに必死になってみて欲しいということですね。
【インタビュー2】に続く
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