新卒で入社後、転職を経て、ゲーム業界に30年以上勤務。人気タイトルをはじめ、さまざまな形でゲームに関わってきたHさんに、匿名を条件にゲーム業界をめざす人に向けてお話を伺いました。
「ゲーム好き」「アニメ好き」だけでは強みにならない
––ゲーム業界でクリエイターとして働きたい人は多いと思いますが、学生時代にやっておいた方がいいことなどはありますか?
採用面接に立ち会うこともありますが、やはり単にゲームが好きというだけでなく、当社のゲームをやりこんでいるというレベルで、楽しんでくれていることが伝わってくるとうれしいですね。
だからといって「色々なゲームをやっています」「何時間もやっています」だけでは足りないんです。なぜなら今、世の中にあるゲームを一生懸命やっても、それを超えることはできないからです。
今あるゲームを超えるために、例えば映画を観たり、旅行をしたりというゲーム以外のインプットが大切になると思います。映画を観る時も、なぜこのカメラワークなのか、なぜこの色を使ったのか。そういう視点でみることをおすすめしたいです。
これは社内で聞いた話ですが…「アニメ作品はたくさん観ています」という人は多いそうです。でも、2Dのアニメに対してゲームは3Dなので、アニメだけを参考にしてもそれを超えるものはつくれないと。
デザイナーも同じで、従来のゲームにない表現をしていかなければいけない。旅行を挙げたのは、自然界にある色に触れることで表現も広がるから。多様なインプットがないと、いずれアウトプットするものも枯渇してしまいます。
また、ゲームというデジタルなものだけれど、最終的には人をどう感動させるかにかかっているので、リアルな経験や人との関わりは大切です。
内定後、入社前にやっておくことはありますか?と聞かれることがあるのですが、技術に関することは必要ないと。それよりも時間のある学生のうちに、人とのつながりを増やしてくださいということは伝えていますね。

50代になって後悔していることは「学歴」ではない
–-Hさんご自身は長年、ゲーム業界でクリエイティブのサポートなどに関わってきて、あの時、ああしておけばよかった、と思うことはありますか?
これまでを振り返って「自分の学歴、卒業大学が違えば、もっとよかった」というようなことを考えることはないですね。ただ、まわりのクリエーターをみていて、色々なアイディアを出し続けられる人はやはりすごいなと。
そう考えると安易に文系学部(経済学部)を選んでしまったけれど、理系学部で学んでおけば可能性が広がったと思うことはあります。当時はあまりなかったですが、ゲームの専門学校に行くとか、もっと目的意識を持って学校を選べばよかったなと。せめて文系学部にいても、学生時代にプログラミングの勉強をしておけばよかったとも思います。
今、50代ですが、そういう技術がある人はフリーになったり、60代、70代でも活躍したりしています。自分の場合、そういう可能性は少ないですから、やはり手に職があるというのはいいな、と年齢を重ねてみて思いますね。
大手は狭き門。それでもゲームの仕事をしたいなら
––ゲームづくりに関わりたいと思った時、ソニーや任天堂やような大手パブリッシャーに入りたいと思う人は多いと思いますが、そういう人にHさんのようにディベロッパーで働く立場から言えることは?
もちろん、大手パブリッシャーはお給料をはじめ、待遇面はいいです。会社としての安定感もあります。でも、やはり入社は狭き門なので、ゲームづくりに関わりたいのなら、色々な会社に目を向けてみてほしいと思いますね。
例えば「スーパーマリオやポケモンなどの人気タイトルに関わりたいから任天堂に入りたい」と思うのは当然ですが、実は大手パブリッシャーがすべてをつくっているわけではないんですね。パブリッシャーのプロデューサーが中心となって、外部のディベロッパーがつくっているケースが多い。そういう上流工程から関われる会社のほうが、ゲームづくりの経験値は上がるはずです。
ディベロッパーによっては、大手パブリッシャーと対等な立場でゲームづくりに関わり、エンドクレジットにクリエイターの名前まで入れてもらえるような関係を築くことが可能なところもあります。
それ以外にも、CGデザイン専門の会社、映像制作専門の会社、プログラムに特化した会社等、ゲーム開発には様々な会社が関わっています。当社も自社の人員だけではゲームを完成させることはできないので、多くの協力会社と信頼関係を築き、制作にあたっています。
ですので、幅広くいろいろな会社に興味を持っていただくことがゲーム業界に関わる第一歩かなと思います。

変化の大きいゲーム業界。長く活躍できる人の共通点
––最後に今後、ゲーム業界で働きたい人に伝えたいことがあればお願いします。
自分がこの会社に入社した頃はCDやカセットを買ってきて遊ぶのが主流で、今のようにスマートフォンで遊べる時代なんて想像もつきませんでした。スマホの出現によって、遊びの中でゲーム機も以前ほど絶対的な存在ではなくなっているように思います。また、ゲーム自体も今は1本で長く楽しめるゲームが主流になり、昔ほどソフトの種類は出ていないという状況があります。
こんなふうに変化が大きい業界なので、またスマホに代わるものが出てきたりしたらゲームの立ち位置も変わっていくはずです。だから例えばロールプレイングゲームを得意としていた会社に入ったけれど、違うタイプのゲームを作ることになった、というようなことも起こりうります。
そう考えると、これからは今まで以上に変化に柔軟に対応していけるか、変化を楽しんでいけるかが問われていくでしょう。自分が入社した頃はプログラマー30歳定年説なんて言われていたのですが、今、50代、60代でも活躍している人はたくさんいます。そういう人を見ると、共通点は好奇心の強さなんです。
ゲーム自体は部屋にこもって1人で静かにできる遊びです。でも、それをつくる人には何か新しいものを生み出したいという熱意や、常にアンテナを張って新しいものを自分で取りにいくエネルギー、人とのつながりをつくっていく力が求められていると思います。

