入学して3カ月で高校を中退。引きこもりに
—高校中退後、大検を経て大学に入られたそうですが、中退して大検を受けようと考えるまでにどんな気持ちの変化があったのですか?
高校は3カ月で中退しました。簡単に言うとケンカに負けたんです。福岡の田舎にある、マンガの「ドラゴン桜」を地でいくような学校だったんですが、暴力で立ち位置が決まるコミュニティにいたので、ケンカに負けたら居場所がなくなってしまった。それで逃げるように辞めました。
辞めて2〜3カ月は遊んでいましたが、もう暴力のコミュニティからは逃げ出したいと思った。以前の関係を絶ち切りたいという気持ちもあって、その後は1年ぐらい引きこもっていましたね。
大学に行こうと思ったきっかけは兄です。兄は進学校から国立大に現役で合格して、大手企業に入った、いわゆるエリート。僕は中学の時、サッカーで全国大会に行ったんですが、兄はそんな自分よりスポーツもできた。しかもカッコいいんです(笑)。
小さい頃から比較されてきたし、何をやっても勝てないから頑張ろうという気になりませんでした。うちは母子家庭で、母だけは「あなたにはあなたの良さがある」と言ってくれていましたが、前向きにはなれませんでしたね。
引きこもっている時期に、兄がよく友達を連れてきていたんです。兄とは年も近いのですが、その友達は自分が接してきた人たちとは全然違ったし、勉強ができた方がモテるとか(笑)、いろんな話をしてくれたんです。
その人たちは何でも手に入れているように見えました。それに比べて自分は高校を辞めて身分を証明できるものもないし、コンプレックスだらけだなと。それを変えたいと思ったんです。
変えるには大学受験しかないと思ったのが一番のきっかけです。
大学に合格。積み重ねで成果が出ることを初めて実感
—そこから猛勉強したのですか?
すぐに勉強を始めたわけではないです。分数や小数のかけ算すらできない学力レベルだったし、そもそも勉強で頑張ったことがないから自信がなかった。それで通信制の高校に行こうとか、定時制に行こうとか考えていましたが、それって現実から逃げているだけなんですよね。
とりあえず定時制高校を卒業しようと思ったのですが、説明会に行ってみて、やっぱりヤンキーがいるコミュニティからは抜け出したいと思ったんです。
その説明会の後、母が泣いてしまったんですよ。それまで母だけが僕のことを決して見捨てないでいてくれたので、そんな母の期待を裏切りたくない、頑張りたいと思いました。それには勉強しかないと思って、ついに大検(現・高卒認定試験。正式名称は高等学校卒業程度認定試験)のための予備校に行き始めたんです。
それが学年で言うと高2の時期です。そこから1年半ぐらい勉強して、高校卒業後、1浪したのと同じ年に大検の最終科目に合格しました。
途中、何度も大検なんてとらなくてもいいやと思いました。それまで成功体験がなかったので、合格を信じて頑張るということ自体がきつかったんです。でも、それって逃げているだけだし、自分でも「今、頑張らないとダメなんだ」と分かっていたからやれたと思います。
予備校で信頼できる仲間に出会ったことも大きかったです。進学校を中退してきたとか、いろんな人がいて「クズを集めているコース」とバカにされていたんですが、大検に受かって大学に入るというモチベーションを保てたのは彼らのおかげです。
—大検合格後、さらに受験勉強もしたわけですよね。
途中からは大検と大学の受験勉強も一緒にしていたので、翌年、大学を受験しました。母でさえ、受かるとは思っていなかったそうです。
学歴コンプレックスだったので、偏差値の高い所という基準だけで選びました。有名な大学に行けば、人生がぱっと変わると思っていましたから。
たくさんの大学を受けて、法政大学に合格した時は感動しましたよ。1日1日頑張る積み重ねで成果が出るということを実感できた、初めての体験でした。今、「今日は、昨日より少し頑張る」ということを大切にしているのは、この経験がきっかけです。
以前はまわりに「どうせ受からない」「おまえには無理だよ」と言われていたけれど、合格したことで必ずしも大人の言うことは正しいわけじゃない、やればできるんだと知ることもできました。
大学に行って気づいた“高校に行くメリット”
—大学はこれまでと全く違うコミュニティだったと思いますが、入学して発見はありましたか?
自分より年下の人が多いせいもあるんですが、正直、みんなガキだなと思いましたね(笑)。学問という点でも特に刺激はなく、全然、楽しくなかったです。
自分にとっては底辺から這い上がるという経験が大事で、今まで自分がいた世界を大学受験によって変えられたことで満足してしまったんだと思います。
入学後はすっかり上昇志向が消えてしまって、2年の時は学校に行かない時期もありました。学費や生活費も稼がなきゃいけないからバイトばっかりしていましたね。
友達も全然いなかったし、大学なんてメリットないなとか、受かったという社会的信頼はあるから中退してもいいか、なんて思っていた時期もありました。
でも、ある時、マイノリティなのは、人間関係がうまく築けない自分だと気づいたんです。人づきあいを避けているのはよくないと思うようになって、3年生ぐらいからは友達も増えて大学生活も楽しくなっていきました。
—大学に行ってよかったですか?
よかったです。実は大学に行ってみて、高校に行くメリットが分かったんですよ。
公立中学は子どもの頃から知っている友達も多いし、同じような家庭環境の子も多かったりしますよね。でも、高校って狭いコミュニティに色々な人が集まるから、自分から人に歩み寄るっていうことができないとうまくいかない。それが自然と身につく場所が高校だと思います。
僕は高校を辞めて、自分が好きなヤツとしかつき合っていなかったから、他者に歩み寄るという当たり前のことが全くできていなかった。だから、大学で初めてそういう環境に置かれて、人とうまくやっていく自信がつきました。それを社会に出る前に知ることができたのはよかったと思います。
あとは有名大学を出て大企業に勤めているような人を“大したことないんだな”と思えるようになったことも大きいです。以前はコンプレックスがあったから、そういう人が特別に見えていたけれど、言ってしまえば人が怖くなくなりました。これもよかったと思います。
インタビュー(2)に続く
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